Hosai Arina Essay Course 2005,2006

　　　雨の日の紫陽花　　（静谷 玲）

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病気の家族を「迷惑」と思うか「苦痛」と思うかは、ずいぶん違うらしい。

私が病気の頃、君がこの話をしてくれた。
病気の頃の私はこの話の意味がよく分からなかった。

分からないまでも、私はこのとき心配になり、
布団に寝たまま君を見上げて「君はどっち」と尋ねた。
「私は苦痛」と君はつぶやくように言った。

今日は梅雨の中休みだ。夕時の太陽がとてもきれいだ。
初夏のそよ風が窓から入ってくる。
近くの団地では、木々の緑が一段と濃くなってきた。

私の病気が治って初めての夏を迎えようとしている。
紫陽花の、青や白、紫の花が、大通りの歩道に一斉に咲き始めた。

私が病気で寝ていた頃の住まいには、
縁側の軒先に青い紫陽花の花が咲いていた。
私が病気なことを知ったのは初春だった。
私は縁側に立ち、まだ緑のつぼみでいる紫陽花を見ながら、
この花が咲く頃にはきっと良くなるだろうと思った。

紫陽花が咲くのに希望を託した私だが、そのまま三年が経った。
紫陽花はずっと私たち二人を縁側から見守っていてくれた。

君が、病気の私以上に、私の病気を苦痛に思っていたことを紫陽花は知っていた。
縁側の紫陽花から見えた風景は、しきっぱなしの布団に寝ている私と、
その私を何時も見守っている君との、二人の姿だったと思う。

それはとてもゆっくりとした時間だった。

二人で毎晩、夜遅くまで観たレンタルビデオのテレビドラマ。
元気をつけるために、起き出して「杖術」の練習をし始めた私を笑う君。
豆乳が身体に良いらしいと知り、私がそればかり飲んでいた頃もあった。
真夜中に縁側で「ドカンドカン」と音がして何かと思いカーテンの隙間を覗き、
縁側にネコが登っているのを見てクスクス笑う私。その私の笑顔と君の笑顔。

当時の私は気付かなかった。
けれど、君が私を見守る姿は縁側のガラス越しにいつも映っていた。

しとしとと雨が降る日は、濡れたガラス越しに、
気候で症状が悪く寝入っている私を、枕元で見守る君が見えただろう。


　（静谷 玲）

【作品整理番号】　３５００９０４
【ペンネーム】:静谷 玲
【課題】:第４回目の課題　「自由課題」
【題名】:雨の日の紫陽花


宝彩有菜のコメント

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